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【1.資産運用の基礎知識】 資産運用、ここに気をつけよう(2) 〜心のバイアスの巻〜

 俗にスティーブ問題と言われている“問題”があります。考えてみてください。

 問題「スティーブは非常に数字に細かく、几帳面で、内向的な青年です。さて、彼の職業は会計士でしょうか。それともセールスマンでしょうか?」

 これは確率に基づいた考え方を促すための問題です。私たちは「几帳面」「数字に細かい」といった彼の性格から、つい「会計士かな?」と考えがちです。推理としては悪くないのですが(会計士がみんな几帳面なわけではありませんが)、確率的にはおおいに問題があります。というのも数千万人という職業人のなかで会計士はわずかしか存在しません。アメリカでは30万人台と推測されます。一方、セールスマンの数は少なくとも数百万人はいるでしょう。確率で考えれば、スティーブはセールスマンであると考えるほうが自然です。

 顕在化する確率が高い、すなわち、起こりやすい、ということは「起きうる妥当性がある」と言い換えることも可能です。妥当性に基づいて意思決定をなすことが資産運用には肝要なのです。あまりにも高い利回りの商品は、確率的にはまれであることが少なくありません。利回りが高すぎることの妥当性を吟味すれば、無用な失敗を避けることができます。

 次はアンカリング(投錨)問題です。毎年、日本で自動車は何台程度生産されているかを問う問題です。

第一問「100万台より上ですか? 下ですか?」
第二問「では、何台程度でしょう?」

 回答者は、第二問を答える際に、まず「うーん、100万台より上かなぁ、下かなぁ・・」と考えるのではないでしょうか。第一問で「100万台」という数字が出ているから、これを中心に考えてしまうのです。「100万台」は推論開始の手掛かりになっているのです。でも、よく考えてみてください。この「100万台」にはなんの根拠もありません。単に問題文に書かれているだけであり、なんらの信憑性もないのです。根拠がないにも関わらず、私たちの頭脳に考えるためのスタートが、あたかも錨を投げ込まれるがごとくに設定されてしまうのです。これをアンカリングといいます。

アンカリング(投錨)の例題

 アンカリングは巧妙に行われます。気をつけないとついつい見落としがちです。株を買うときに「バブルの頃には4万円でしたしねぇ・・」と笑顔でセールスマンに言われると、つい「4万円程度までは値上がりするかもしれない」という錨が投げ込まれます。  ちなみに、日本における自動車の生産台数は2016年で約920万台です。

 “Illusion of Control” という言葉があります。
「コントロールできると思い込んでいるが、それは実は幻想だ」ということです。株式投資で考えてみましょう。株式は会社の業績に左右されますから、一番よくわかっている会社の株を買えばリスクを減らすことができます。そうした知識に基づき、業績が良さそうであれば買い増し、悪くなりそうであれば他の投資家よりも先に売ればいいのです。

 一番良くわかっている会社、それは、とりもなおさず自分が勤務している会社です。自社株のことならなんでもわかるので投資のリスクが少ないと考えがちです。この考え方が過剰な自信を引き起こし、アメリカでは自社株が紙きれになってしまった幾多の例が示されています。

 運用の理論に長けていても、心の落とし穴に落ちてしまうと思わぬ損失を被ります。私たちが持っている思考方法の癖にも目を向けることが重要なのです。

※2016年(暦年)データより。四輪車生産台数のうち乗用車、トラック、バスの合計値は、9,204,696台。
一般社団法人日本自動車工業会HPより


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