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【旅と日本の器③】九谷焼をめぐる旅〜後編・九谷青窯を訪ねる〜

前編、中編と2回に分けてお届けしてきた九谷焼をめぐる旅も、今回で完結となります。前編では、『石川県九谷焼美術館』の方にお話しを伺いながら、九谷焼のルーツや歴史を探り、中編では、『九谷焼技術研修所』の技術指導課長の方から、九谷焼の“今と未来”、技術習得後の若手の方の活躍の場について伺いました。
九谷焼をめぐる旅、後編となる3回目のコラムでは、デザインから成形、絵付けまでを一貫して行う独自路線で、イチスタイルを築き上げた『九谷青窯』を取材。現場取材を通じて見えてきた私達の食卓を彩る新しい器のカタチとは?

前編の記事についてはこちら、中編の記事についてはこちらをご覧ください。

はじめに

『九谷青窯』と聞けば、器好きなら知る人も多い有名メーカー。全国各地のインテリアショップや雑貨屋、WEBショップなどで多数取り扱われ、販売されればすぐ売り切れてしまうほどの人気ぶりです。
また、『九谷青窯』を知らずに「この作家さんの器ステキだな」とたまたま手にした器が、そこに在籍する陶工の作品ということが多いのも特徴のひとつ。メーカー名より、そこに多数在籍する人気陶工(作家)名で親しみをもっている人も少なくないのが面白いところ。
そんな風に、個々の陶工が集まるメーカー「集合体」でありながら、「個」の存在も一際輝きを放つ『九谷青窯』で、世間的認知度のアップに貢献したとも言うべき陶工の1人、徳永遊心(とくながゆうしん)さんにお話しを伺いました(取材文は全て徳永さんの語りです)。徳永さんは『九谷青窯』に入社後、現在はフリーランスの陶工として同窯で活躍されています。


九谷青窯の作業風景。



徳永遊心さんと、自身が作陶した器とともに。

1.コンセプトは「座辺常用」。家族で食事を楽しむ時代の流れに合わせて
2.九谷焼のベースを持ちながら、いろいろな場所でそれぞれが活躍できるように
3.一期一会な、器との出会いを大切に

1.コンセプトは「座辺常用」。家族で食事を楽しむ時代の流れに合わせて
「器の使い方って、時代の流れとともにだいぶ変わってきたのだと思います。かつては、人を家に招いて大勢で食事するために、商店街の瀬戸物や百貨店で家長が5個セットの食器を購入して使う、といったことも頻繁でした。でも今では、主婦が食器を選ぶ時代。家族単位の食事が普通で、一人暮らしの人も多いからなおさら小規模ですよね。食卓にあがる料理も和洋中様々で、必要とされる食器が明らかに変わってきたんです」

「そこで、時代の流れに合った器を提供したいという想いから、「座辺常用」をコンセプトに『九谷青窯』が創業した、と代表の秦耀一(はたよういち氏・『九谷青窯』の創業者であり、現在も現役で社員の教育指導にあたる)から聞いています。飾って眺めて、箱に入れて年に数回あるかないかの出番を待つ器ではなく、座った手の届く範囲にいつもあって、日常使いできる器づくりを目指した秦の想い。それが今でもここにしっかりと根付いていますね」

「他の窯は、分業制での製品づくりがほとんどですが、『九谷青窯』ではデザイン、製造から絵付けまでを1人が行っています。また完全に手挽きろくろなのも珍しいんですよ。工業製品が簡単に手に入るようになってからは手作りのシェアがどんどん縮小傾向にあって、今この界隈で九谷の手挽き粘土を使っている量はうちが一番多いんじゃないかな、という印象です」

「市場は狭いですが、身近な雑貨屋などで取り扱われるようになり、お客さまが手作りならではの温もりや風合いに触れる機会が増えたことで、工芸をよく知らない人にも「これを使いたい」と思ってもらえるニーズが増えてきた気がします。私達はなるべく手の届きやすい価格帯で、「これステキ」と日々使えるものをお届けしたい、と各陶工が作陶に励んでいます」


各陶工が、手挽きろくろの前で作業中。削った粘土のくずが連なる様子も何だか新鮮。

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1.九谷焼のベースを持ちながら、いろいろな場所でそれぞれが活躍できるように
「『九谷青窯』は他の窯とは一風変わったスタイルです。自分もそうでしたが、入社すると、とにかく好きなものを作りたいように作らせてもらえるんですよ。これってすごく珍しいことで…。普通は、その窯のカラーに従って技術を習得し、一人前に作陶できるまで修行を積んで独立が一般的。でもここでは、その人に能力があれば、早くにお客がつき、そのお客さまごと抱えて独立ができます。例えば、器がズラリ並ぶこの部屋には、時々バイヤーの方もいらして、自分の店で扱う商品を品定めするのですが、パッと目に付いたものが新人の作品だった、ということもよくありますね」

「ここで学び、独立した人たちが、今では全国各地に4〜50人。ちょっと学校みたいな感じですよね。秦は『機械で作れるものは機械に任せればいい。手で作れるものを生み出す人材をこの業界に送り出し続けたい』という気持ちが強いようで、『九谷焼のベースをもちながら、その子が一生陶芸を生業としてやっていけるように。色々な場所で活躍できるのが理想的』と思って人材育成をしているなんじゃないかな、と感じます」

「また、秦自身、九谷焼の技術にはさほど固執していないのも風変わりかなと思います。そこは自然の流れで、求められれば九谷焼は残るだろうし…という考え方なのでしょう。それより、時代が求めるものを汲み取って提供することを大切にしている感じですね。だから、地元の粘土や絵具を使って作ってはいるけれど、それぞれの“陶工らしさ”が感じられる器ができあがるんだと思いますよ」


使う粘土は陶石が材料とは思えないほど、柔らかくてキメ細やか(左)。
↑焼成後、絵付けを待つ器たち(右)。



徳永さんの作業デスク(上左)。
全国各地に発送されるのを待つ徳永さん作の器(上右)。
人気の花繋ぎ(手前)と菊(奥)が施されたぷっくり愛らしい動物モチーフも(下)。

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3.一期一会な、器との出会いを大切に
「ちょっと頑張ってお金を出して買いたい」という価格帯をキープしながら、手作りを維持していくのは、なかなか大変です。一人で作れる量にも限界はありますし、それなりの工夫が必要に。『九谷青窯』では、それを早い段階で経験し、体感するチャンスが多くあるので、独立しても強いんだと思いますね。自分の好きな器を作って、それが世間から認められ、かつ産業として成り立つことは、陶工の励みであり、喜びでもありますから」

「あと、先程の雑貨屋で取り扱われるようになって…とお話ししましたが、それにプラスして、ネットショップの普及で、より購入しやすくなったことはこの業界にとってすごく大きいと思います。よく私、エゴサーチをするのですが…(笑)。やはり器って、料理が盛られて、使われてこそなので、皆さんが、料理を盛り付けてアップしているインスタ写真はすごく有難く拝見しています。「料理上手だな〜」とびっくりするぐらい、ステキに盛り付けてくださっていて。こういう写真を見るとすごく嬉しいですよね」

「そんな風に、ネットは便利で使い勝手もよいですが、ちょっとした懸念もなくはなくて。私の商品でいえば、“花繋ぎ”という絵付けをした商品が人気で、これがヒットすると、『同じものが欲しい』と同商品にたくさんの発注がかかるのですが、作り手としては、『他にこんなのもあるよ』と色々見てもらいたい気持ちもあります。そういう意味では、色々な商品が並べられた実店舗の方が“一期一会”がありますよね。何気なく立ち寄った店で、たまたま心惹かれた器。そうした時間も大切にしてもらいたいな、って」

「とはいえ、ネットの在り方も今後また色々変わっていくのでしょうし、求められる器のニーズも合わせて変わっていく。それに合わせて、私含め『九谷青窯』は、時流を見極めつつ、柔軟な対応力で前へと進んでいかなければいけないのだと思います。『ちょっとセンスのいい、手作りのものを日常に使う豊かさ』みたいなものをそれぞれが大切に、作り手、買い手が満足する器作りがこの先もできたらいいな、と思います」


九谷青窯の会議室兼プレスルーム(上)。
ズラリ並べられた陶工たちの作品に目を奪われる(下左)。
九谷焼らしい五彩の湯のみや蕎麦猪口も(下右)。

■九谷青窯:石川県能美市大長野町チ102
1971年開窯。主宰は秦耀一氏。国内に限らず海外からの注目度も高い。社員として在籍する陶工は常時12名ほどで、それぞれの出身地も全国津々浦々さまざま。陶工同士が刺激し合い、個々のオリジナリティを発揮できる環境が魅力的な次世代型の器メーカー。
※工房の一般見学は行っていません。

田中恵子(ライター/フードコーディネーター)
編集プロダクション、WEB制作会社を経てフリーランスに。フード、ファッション、介護などの媒体で、取材・執筆・編集を担当。食べることが大好きで、フード系の取材は多い月で30件にも及ぶ。最近では横浜の農を普及する「はまふぅどコンシェルジュ」を取得。月刊誌「カフェ&レストラン」(旭屋出版社)では、野菜がおいしいお店を紹介する『VegiLove』を連載中。
http://www.asahiya-jp.com/cafe_res/

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