ここ数年の健康ブームにより、日本では様々な食品がブームになりました。世間を賑わした“あれやこれや”、皆さんはどれくらい継続して普段の食生活に取り入れていますか? ブームの時は目新しさも手伝って購入したものの、それっきり…なんていう方も多いのではないでしょうか?
健康を意識しつつも、“継続”して食事に取り入れることはなかなか難しいものです。
そんななか、日本人に馴染み深い調味料、「醤油」、「みそ」、「みりん」は、健康にいい発酵食品として、改めてそのパワーが見直されています。古来より日本人の健康を支えてきた発酵食品の魅力に迫ってみましょう。
そもそも発酵とは?
発酵とは、目には見えない微生物「発酵菌」が繁殖を繰り返すことで、元の食材が変化することをいいます。発酵により、香りや味、色が変化、旨みと栄養価もぐんとアップ、保存性も高まることから、先人たちは、食品の加工や保存に“発酵”を利用してきました。
また、発酵により乳酸菌が増えることで、健康にもいいといわれています。各国、その土地・風土に合った発酵食品が生まれ、今でも私達の食卓に欠かせない存在です。
発酵には植物性と動物性が
発酵することで食材に発生する多くの『乳酸菌』は、「善玉菌」などとも言われ、腸のなかで有益な働きをしてくれます。この乳酸菌には、ヨーグルトやチーズといった「動物性乳酸菌(=動物性発酵食品)」と、漬物やみそ、しょうゆといった「植物性乳酸菌(=植物性発酵食品)」に大別されます。
動物性発酵食品は、主に牛乳の乳に含まれる乳酸菌によるものなので、先に紹介したとおり、ヨーグルトやチーズが代表例です。一方、植物を原料とすることでできる植物性発酵食品は、各国それぞれで、バリエーションもいろいろあります。どんな発酵食品があるかご紹介しましょう。
■日本の発酵食品
(実は、日本は発酵食品の大国!)
- ●醤油…大豆、小麦を麹菌、酵母菌で発酵。
- ●味噌…大豆(と塩)を麹菌で発酵。
- ●みりん…焼酎、もち米に米麹で発酵。
- ●酢…米、果物、穀物などをベースに酵母菌などで発酵。
- ●アルコール類(酒)…穀物類や芋などをベースに、酵母菌で発酵。
- ●納豆…大豆を納豆菌で発酵。
- ●漬物…野菜に付着する植物性乳酸菌や酵母と塩で発酵。
- ●ぬか漬け…野菜を「ぬか床(米ぬか、塩で発酵させてもの)」で発酵。
- ●かつお節(枯節)…かつおを煮詰めて煙でいぶした「荒節」に、かつお節菌で発酵。
■海外の発酵食品
- ●キムチ(韓国)…野菜(白菜など)に付着する植物性乳酸菌と塩や香辛料などで発酵。
- ●ザワークラウト(ドイツ)…キャベツの塩漬けが自然に植物性乳酸菌発酵。
- ●メンマ(中国)…筍を乳酸菌で発酵。
- ●ナタデココ(フィリピン)…ココナッツ果汁に砂糖、酢酸菌で発酵。
- ●ナム・プラー(タイ)…魚の塩漬けを発酵(魚醤)。
- ●アンチョビ(イタリア)…イワシの塩漬けを発酵後、オリーブオイルで漬ける。
このように世界には様々な発酵食品があり、なかでも日本は多くの種類の発酵食品を日常の食事にとり込んできた発酵食品大国であることがお分かりいただけたでしょう。何よりうれしいのは、普段私達が口にする和食に、発酵食品である醤油や味噌、みりんなどの調味料が多く使われていることです。ヨーグルトやチーズを意識して食べずとも、自然と毎日の食卓に発酵食品を取り入れることができるわけです。
また、発酵食品は料理の味に深みを出してくれる優れものです。これはある人気レストランのシェフから聞いた話ですが、和食以外のイタリアンや中華であっても、ほんの少し、醤油や味噌を隠し味程度に入れるそうです。すると、一段と“美味しさ”が増すそうです。日本人に馴染みのある味が加わることで、例えフレンチであっても料理に親しみがもてるのだそうです。
日本で最初に作られた発酵食品はお酒!?
上記でご紹介したとおり、日本には様々な発酵食品があります。「この食材も?」と私が意外だったのは「かつお節」。かつお節でだしをとり、味噌と合わせた「みそ汁」は、もしかしたら最強の発酵料理かも…。そんな発酵食品が古来より根付く日本。そのルーツを少し探ってみましょう。
発酵食品の歴史は古く、日本では縄文時代からお酒が造られていたといいます。当時は、空気中にある酵母と混ざることで発酵する方法が主だったようですが、その後、米に麹菌が発生しているのを発見、そこから麹菌を利用した発酵食品が生まれていったようです。
みそ汁は鎌倉時代から。江戸時代では海外にも
味噌や醤油の原点は、中国や朝鮮半島からもたらされた「醤」。中国には、豆板“醤”、甜麺“醤”などがあり、中華に欠かせない調味料です。一方、日本にもたらされた「醤」が、日本独自の発酵方法でオリジナルに変化していったのが、味噌や醤油です。
■味噌の歴史
“味噌”は、平安時代の文献にも登場しています。その後、鎌倉時代の武士の食事『一汁一菜』で分かるとおり、みそ汁が登場。室町時代には大豆の生産量も増え、自家製味噌を作って、保存食として利用することが庶民の間にも広まっていったようです。時代劇などで見る、握り飯に味噌が塗られた携帯食からも、当時の味噌の浸透具合が想像できます。
■醤油の歴史
“醤油”はみそから染み出る汁が美味しい、ということから作られるようになったようです。醤油が広く世界に広まったのは、江戸時代。鎖国の唯一の交易場であった長崎より、中国やオランダに輸出され、海外で知られる万能調味料となっていきました。
発酵食品が健康にいいことは、先人たちも多いに理解。
昔から味噌にはことわざがいっぱいあります。「味噌には医者いらず」、江戸時代には、「医者に金を払うよりも、味噌屋に払え」ということわざもあったそうです。当時から、発酵食品のすばらしさ、体へのよい影響が理解されていた証です。
ちなみに、味噌の健康効果をご紹介すると、乳酸菌による整腸作用、老化防止、美肌、血圧低下、生活習慣病のリスクを軽減することも期待できるそうです。発酵により、アミノ酸やビタミン類が豊富に生成されることが、これら効果に一役買っているのは間違いありません。
さて、ここで日本人にとって身近な発酵食品、“味噌”を手作りしてみませんか? 一見、とっても難しそうですが、文明の利器「フードプロセッサー」を使えば、とっても簡単です。 防腐剤を使用しない自家製味噌は、まろやかで、とっても美味。発酵具合によって、味わいも変化していく過程も楽しめます。味噌作りは寒い季節、1〜4月ぐらいまでに仕込み、夏の高温多湿で発酵させ、冬の時季(11月〜)には出来上がって食すことができます。ぜひ一度、作ってみてください。
- 【用意する食材】(出来上がり4�分の分量)
- ■大豆…1�
- ■乾燥米こうじ…1�
- ■塩…約500g〜1�(好みの塩加減で変わる)
- 【用意する道具】
- ■大き目のボウル
- ■密閉容器(味噌を保存する密閉性の高い容器)
- ■フードプロセッサー(なければすり鉢とすり棒)
【作り方】
(事前準備)
大豆を一晩水につけ戻す。豆がふっくらしたら、水を捨て(捨てずにそのまま使うレシピもあり)、鍋に大豆と浸るぐらいの水を入れ、強火で煮る。沸騰してきたら、アクをとりつつ1〜1時間半ほど柔らかくなるまで(指先でつぶれる)煮る。冷ます。
大きめのボウルに米こうじを全て入れ、手で細かく揉みほぐす(フードプロセッサーにかけて細かくしてもOK)。そこに塩(全体量の1/10ぐらいの塩は別にとっておく)を入れ、よく手で混ぜ合わせる。
大豆をフードプロセッサーで細かくする(細かさの具合が出来上がりの味噌に反映される)。大豆の粒々感を楽しみたい人は粗目に、滑らかな味噌にしたい場合はより細かく。フードプロセッサーがない場合は、すりこぎでする、ビニール袋に入れてその上から棒でつぶす方法も。 細かくした大豆を1)のボウルにうつす。
2)の米こうじ、塩、大豆をよく混ぜ合わせる。全体がよく馴染むように混ぜたら、手の平サイズの球状に丸めていく。それを全量分いくつも作る。
丸めた4)を、容器に向けて叩きつけるように投げ入れていく。ここでしっかり空気を抜きながらつめていくことが大事。途中、途中、空気が入らない手で均一にならす。
全て容器に詰めたら、残していた塩を、表面全体にまんべんなくふりかける。ふちからカビやすいので、ふちにもしっかりと塩をまく。上からラップをかけ蓋をしたら出来上がり。防腐のため、この上から練りわさびを少量ずつ全体に置いておくとカビにくくなる。密閉したら、太陽光のあたらない風通しのよい場所などで保管。約半年ぐらい発酵させたら出来上がり。
日本人にとって馴染みのある発酵食品。色々ブームになってきた食品は数あれど、これだけ日本の食卓と古くから深い絆で結ばれている食品は他にはないかもしれません。気軽に健康を気遣うなら、まずは日本の発酵食品に目を向けてみましょう。そして、少しだけこだわって、添加物などを使用せず、昔ながらの製法で作られたものなどを購入してみて。発酵食品がもつ秘めたるパワーを毎日の食卓にぜひ取り入れてみてください。
編集プロダクション、WEB制作会社を経てフリーランスに。フード、ファッション、介護などの媒体で、取材・執筆・編集を担当。食べることが大好きで、フード系の取材は多い月で30件にも及ぶ。最近では横浜の農を普及する「はまふぅどコンシェルジュ」を取得。月刊誌「カフェ&レストラン」(旭屋出版社)では、野菜がおいしいお店を紹介する『VegiLove』を連載中。
http://www.asahiya-jp.com/cafe_res/