- ソーシャル・サポートの一員であることを自覚する
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こころが元気であるためには、よい人間関係を築いていくことこそ大切です。こころに病気を持つ人に気づいたら、周囲がサポートしてあげてください。
ソーシャル・サポートって何?
ソーシャル・サポートとは、「人がある情報を受け取ることによって、自分が世話を受け、愛され、価値あるものと評価され、コミュニケーションと相互の責任のネットワークの一員であると信じることができるような情報」(Cobb<1976>、浦光博<1992>のレポートより引用)とあります。簡単に言えば、私たちが生活する上で得ているさまざまな援助のことです。よい対人関係をつくれるようになるために大切なのがソーシャル・サポートなのです。
こころに病気をもつ人は、さまざまな理由でよい対人関係を築けなくなっています。また、周囲の人に不信感を持ってしまっていることもあります。そのような状況を打開し、信頼できる対人関係を築いていくことこそ、社会復帰への道と言えるでしょう。
対人関係によるソーシャル・サポートには、大きく分けて道具的サポートと情緒的サポートがあります。
■道具的サポート
何かあったときに助けてくれるような信頼できる対人関係のことです。何らかのストレスに苦しんでいる人の人間関係に介入して、その関係を調整したり、具体的なアドバイスを行ったりします。医師や看護師のサポートもそれに当たります。
■情緒的サポート
お互いにこころの交流が得られる対人関係のことです。勇気づけたり、励ましたりと、周囲にいる友人や家族などがストレスに苦しむ人のそばにいて、友情や愛情を示すことが大切です。そうすることで、当人の傷ついた自尊心や情緒に働きかけて、その傷を癒し、自ら積極的に問題解決に当たれるような状態に戻していくことができるかもしれません。
道具的サポート
■心療内科はストレスの専門
心療内科とは、心理的ストレスの影響まで考えながら診察する内科のことです。体に現れた病気もストレスが招いたものかもしれません。つまり、体の症状とこころの症状の両面から治療してくれる専門医が必要なのです。
普通の内科に通ってもよくならない、原因がわからないというときは、こころにその原因があるかもしれないと考え、心療内科の扉をたたいてみましょう。病気の程度や症状と合わせて、心理的な影響、環境要因などをチェックし、その人にふさわしい療法を考えてくれるでしょう。
■診療を受けることをためらわないで
ストレスで悩み、自分一人でいろいろ工夫してみたけれど、どうもうまくいかないというときは、一人で考え込まないで、専門家に相談してみましょう。今やストレスで悩まない人はいません。また、ストレスに関連した病気にかかっていることも珍しいことではありません。相談して、援助してもらうために、専門家を味方につけようというくらいの気持ちで訪ねてみましょう。
また、自分に合った医師、病院を選ぶようにしましょう。どうも医師との相性が悪い、病院の雰囲気が嫌いといった場合は、自分に合った医師や病院を見つけるよう努力することが大切です。それが治療への早道でもあるのです。
■心療内科を選ぶときのポイント
- 病院
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- 通いやすい
- 診察時間を15分以上とってくれる
- 医師・看護師・臨床心理士の3人が揃っている
- 看護師が親切
- 医師
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- 話しやすい(医師との相性がいい)
- じっくり聞いてくれる(話をせかさない)
- 病気や薬の説明がていねい
■心療内科の治療法
一般心理療法(カウンセリング)
一般心理療法は、受容、保証、支持の3つの要素から成り立っています。患者の不安や症状に対する苦痛を理解し(受容)、患者にわかりやすく症状を説明して、治るものであることを約束し(保証)、そして、患者の立場ややり方を認めて問題に対処していく過程を支えます(支持)。
カウンセリングは、相談とか助言指導ともいわれ、受容、保証、支持を織り交ぜて、患者が自ら治ろうという方向に向けていくものです。じっくりと患者の話を聞き、患者が自分自身の問題に気づくように促し、そして、問題解決へ向けて援助していきます。
行動療法
ストレスが原因で病気になる人のなかには、悪い行動習慣がある人もいます。それを悪い条件反応と考え、悪い行動をよい行動へと変容させていくための治療が行動療法です。特に、不安や恐怖に対して有効な療法とされています。つまり、不安や恐怖に立ち向かうことから始める治療法なのです。
その他の療法
専門医ではさまざまな療法が患者の状態に合わせて利用されています。
- 催眠療法(暗示療法)
- バイオ・フィードバック療法
- 血圧や脳波などの情報を自分でコントロールする方法を会得していく。
- バイオ・エナージ療法
- むしゃくしゃして面白くないとき、スカッとした気持ちになるようにする。
- 森田療法
- きまじめ、几帳面、とらわれが強い性質の患者に、「あるがまま」を受け入れるような生活指導を行う。
- 絶食療法
- 入院して10日間は絶食し、以後5日をかけて復食させ、体からこころの状態を整えようとする。
- 音楽療法
- ボディ・ソニックやブレスマックなどの機械を利用。
- 箱庭療法
- 言語化の困難な子どもの場合に特に有効。
情緒的サポート
■家庭でのソーシャル・サポート
家庭でのコミュニケーションが薄れつつあります。例えば、塾や習い事で子どもが忙しかったり、残業やつき合いでなかなか父親が帰宅しなかったり、家庭でのすれ違い生活で、会話が少なくなり、それぞれのストレスが高まっていきます。
そして、妻の夫に対する信頼感の喪失、誰にも相談できない孤独感、子育てに対する不安などから、さまざまなこころの病にむしばまれていく場合もあります。
そこで、情緒的ソーシャル・サポートで最も重要となってくるのが家庭でのコミュニケーションの回復です。家族とのこころのこもった関係を取り戻し、お互いに日々語り合い、話し合うことが大切です。
主なストレス要因
- 経済的要因
- 家族の健康
- 親子関係、夫婦関係などの家庭内での人間関係
- 家族の介護
- 子どもの教育、進路
ストレスの状況に気づくためにストレス度チェックを活用してみましょう。
■職場でのソーシャル・サポート
職場での人間関係や仕事上の問題からストレスを感じ、こころの病気になることも多々あります。このような職場ストレスに適切に対処するために、職場でのストレス・マネジメントやソーシャル・サポートが求められています。
ストレスの原因となるような日常の生活や仕事上の悩みについて、気軽に相談できる人材を確保し、問題の早期発見と適切な対応ができる体制を整備する必要があります。そのためにも、管理・監督者の教育、そのための研修の実施などが望まれます。
主なストレス要因
- 長時間勤務
- 過重な心理的負荷のかかる勤務
- 上司、同僚、部下などとの人間関係の悪化
- 昇任による責任の増大
- 転勤・配置転換による勤務環境の変化
- 単身赴任に伴う勤務環境、家庭関係の変化
職場でのこころが不健康状態のサイン
- 表情が暗くなり、元気がなくなる
- 欠勤、遅刻、早退が増える
- 仕事の能率が低下する
- 積極性や決断力が低下する
- ミスが増える
- 飲酒による問題を起こすようになる
- 口数が減り、周囲の人と折り合いが悪くなる
- 身だしなみがだらしなくなる
- 体調の悪さを訴える
不健康な状態の人を見つけたら
- 管理監督者と連携し、必要に応じて家族と協力しながら、専門家への早期受診をすすめる。
- 家族などから連絡があったときは、職場における状況を把握し、専門家への受診等、必要な支援を行う。
職場復帰を受け入れるとき
こころの問題により長期間職場を離れていた人が、主治医から職場復帰の時期が近いと判断されたとき、主治医からの情報収集、職場・家族からの情報収集、病気休暇前の職場からの情報収集をして、その検討をしなければなりません。そして、回復の状況、復帰後の勤務内容の希望等について、十分に確認を行います。何より、復帰前の本人の不安、緊張等をやわらげることとともに、復帰に対する意欲を高めていくことが求められます。
そして、職場復帰後は、その人の状況に注意し、必要があれば当初の受け入れ方針を変更していくことが、順調な回復と再発防止のためにも必要です。
■一般社会でのソーシャル・サポート
精神保健福祉センター
精神保健福祉センターは、精神保健福祉法によって各都道府県に設置することが定められています。こころの健康の保持と向上を目的として、こころの問題を抱える本人や家族、そして関係者からの相談を受け付けるとともに、こころの病を持つ人の自立と社会復帰を目指して、社会に適応していく力をつけるために指導と援助が行われています。
また、「こころの電話相談」では、簡単な助言や専門の医療機関または相談機関の紹介もしています。匿名でも受け付けているので、まずは電話してみてはいかがでしょうか。
■ピア・カウンセリング
ピア(peer)とは、「仲間」を意味し、ピア・カウンセリングは、高度な訓練を受けた専門家のカウンセリングではなく、似通った年齢グループに属する相手に対して、手をさしのべ、支援して、話に耳を傾けるカウンセリングのことです。最近は、介護の分野や教育現場、職場などで活用されています。社内で〇〇サークルと称して、ピア・カウンセリングを開いている企業もあります。
社会的背景を共有し、危機的状況で時間を割いて援助してくれる仲間がいるということは大きな力となってくれるようです。また、苦しんでいる本人が専門家との接触を望まない場合、このピア・カウンセリングが有効ともいわれています。
- |自殺を思いとどまって|
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ストレス社会で、どうしようもなく困難な問題に直面したとき、自ら命を絶ってしまう人が増えています。特にうつ病になると、死にたいという気持ちが生じやすくなります。それが苦しみから逃れる解決策に見えてしまうのでしょう。
WHO(世界保健機関)は、「自殺は防ぐことのできる公衆衛生上の問題」と言っているとおり、行政機関が徐々にではありますが、その観点から具体的な取り組みを行い始めています。
どうにもならない悩みや状況を抱えている人は、その周囲からでもかまいません。ぜひそのような各機関に救いの手を求めてみてください。厚生労働省では、「まもろうよ こころ」(mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/)を開設し電話相談やSNS相談の窓口を紹介しています。電話相談には、「#いのちSOS」「よりそいホットライン」「いのちの電話」など、さまざまな名称で相談体制をつくっています。SNS相談には、「あなたのいばしょ」「BONDプロジェクト」「チャイルド支援センター」などがあります。→いのちの電話(inochinodenwa.org/?page_id=267)