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睡眠負債を作らないためには

「睡眠負債」という言葉をご存知でしょうか? これは慢性的な睡眠不足のことです。わざわざ「負債」としているのは、睡眠の特徴に「過去の睡眠不足は追加して睡眠をとることで“時間の不足”は取り返せるものの、睡眠による健康の質は失われたまま」ということがあるからです。 しかも、将来(翌日以降)に寝不足になることを予想して前もって「寝だめ」をしても効果はありません。睡眠は過去の睡眠不足、つまり睡眠時間の不足という借金を休日に寝坊することで帳消しにすることはできても、睡眠のもたらす効果は貯金できません。睡眠は毎日きちんと必要な時間をとることが重要なのです。

良質な睡眠には朝食をとることが最も効果的

良い睡眠のためにはこれが絶対という方法はありませんが、朝食をとることで乱れた睡眠をリセットすることができます。それは朝食が体内時計を動かし「朝」を認識し、昼間は活発に動き夜は寝るというリズムを取り戻すことができるからです。

1. 適切な睡眠時間は7〜8時間
2. 睡眠を促す食材は?
3. 「お酒で眠れる」は間違い
4. カフェインは睡眠の邪魔をする
5. 乱れた睡眠は朝食でリセット

1.適切な睡眠時間は7〜8時間

睡眠不足は生活習慣病や肥満の原因に

睡眠は何時間とれば良いのでしょう?
これは急速に進んだ睡眠に関する研究により、7〜8時間とされています。
睡眠不足には様々なデメリットがあります。免疫力の低下、がん・うつ病・認知症の発生率の上昇など、重大な病気を招く原因となります。睡眠が6時間を切ると、死亡率が5倍、がんのリスクが6倍以上、生活習慣病のリスクが3倍以上、うつ病、認知症などのリスクが大幅に増えるという研究結果まであります。
同時に肥満にもなりやすくなります。米コロンビア大学が2005年に32〜59歳の男女8,000人を対象に行った調査結果によると、平均7〜8時間の睡眠時間の人に比べて、5時間睡眠の人は肥満率が50%も高く、4時間以下の睡眠の人の肥満率は73%も高かったのです。肥満は生活習慣病と密接に絡んでいるので、やはり睡眠不足は健康に大きなダメージを与える要素なのです。

熟睡はダイエットにも効果

睡眠にはストレス解消効果があります。熟睡することで「どか食い」といったストレスによる無駄な食欲を消してくれます。ストレスによる暴飲暴食を防いでくれるので、肥満や生活習慣病が起きる要素をつぶしてくれるのです。
また、熟睡することによって睡眠中に成長ホルモンが分泌されます。成長ホルモンは思春期だけに分泌されるホルモンではありません。成長期と呼ばれる時期に集中的に多く分泌されているだけで、その後も量は少なくなっても分泌され続けているのです。この成長ホルモンが脂肪を分解してくれます。つまり、熟睡することはダイエットにも効果があるのです。
なお、成長ホルモンの分泌は運動をすることでも促進されます。ウォーキングなど有酸素運動を60分程度すると効果的です。

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2. 睡眠を促す食材は?

直接の効果ではなく眠りやすさを期待

現在、直接的に睡眠を促す食材は明らかになっていません。過去にテレビの健康情報番組でレタスに入眠効果があると紹介されていましたが、根拠はありませんでした。
つまり「これを食べたら眠れる」という食材はありません。しかし、眠りやすくするような食材が2つあるのです。

寝る前のホットミルク

1つは寝る前のホットミルクです。
なぜ熟睡するために暖かい牛乳が良いのでしょうか? それは「温かい」と感じる温度が自律神経をリラックスさせるからです。自律神経は日中、体を活発に活動させるために興奮モードになっています。しかし、寝る前まで興奮モードにあると、頭が冴えて眠れません。そこで、温かい牛乳を飲むと、休息モードに切り替わります。休息モードになると熟睡しやすくなるのです。
繰り返しになりますが、牛乳の温度は「温かい」と感じる程度。電子レンジの「飲み物モード」で温めても良いですね。なべで沸かして熱々にしてしまうと逆に自律神経がビックリして落ち着きません。冷たすぎる場合も同じです。コップを持って「温かいな」と自分がほっと一息つけるような温度が良いのです。

【牛乳のトリプトファンが睡眠に効果的】

熟睡をするには、アミノ酸の一種であるトリプトファンが必要です。トリプトファンは、自然な睡眠を促すホルモンであるメラトニンの材料になります。しかもトリプトファンは、安眠を導く働きを持つセロトニンの材料にもなるのです。
セロトニンは、ストレスを緩和する効果を持っています。しかし、セロトニンは日中のストレスでどんどん消費されてしまいます。そこで、ストレスで減ったセロトニンを次々に補給しなければなりません。そのために、セロトニンを作るには材料になるトリプトファンが必要になります。このトリプトファンを効率よく豊富に取り入れられる食品が牛乳なのです。
セロトニン不足はうつ病の原因とされていますので、ストレスの多い人や気持ちが不安定な人はコップ1杯の牛乳を飲む習慣をつけても良いでしょう。

セロリの香りを吸い込んでみる

2つ目の食材はセロリです。実は、セロリほど心を休ませる効果を持つ食材はありません。セロリには独特の香りがあります。この香りにセロリの秘密が隠されているのです。
セロリを食べると香りを同時に取り込みます。セロリ特有の香り成分である「アピイン」などには、自律神経をリラックスさせる効果があります。気持ちが不安定だと眠りにくくなったり、熟睡しにくくなったりします。しかし、セロリの香りの効果で安眠しやすくなるのです。つまり、セロリの香りにはストレス解消効果があり、イライラや落ち込んだ気持ちを軽くする効果があります。ですから、セロリは夕食に食べるのが良いですね。
セロリが苦手な人は白い茎だけを鶏肉やベーコンなどと炒めて食べると特有の香りが薄くなって食べやすくなります。とは言え、香りがポイントなので、できれば香りの強い葉も一緒に食べるのがおすすめです。充分に水洗いをして食べてください。
セロリはサラダなど生で食べるのが一般的ですが、葉もともに肉類と一緒に炒めると香り成分をシッカリと取り込めるのでおすすめです。

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3. 「お酒で眠れる」は間違い

お酒では安眠できない

よく誤解されているのがお酒です。お酒を飲むと確かにウトウトとして眠くなります。宴席で眠くなっている人や自宅で眠るために飲む人もいます。
しかし、これは大間違い。お酒によってもたらされた睡眠は質の悪い浅い睡眠です。酔って眠った場合、もっと眠っていたいのに、朝早く目覚めてしまうことがあり、睡眠時間を確保できません。また、睡眠が浅いために、途中で目覚めてしまうこともあります。二度寝しても熟睡はできません。つまり、シッカリと眠っていないのです。
睡眠は質と時間の両方が確保できていなければ、その効果を得ることはできません。睡眠の効果は、心身の疲労回復だけでなく、ストレス解消のほか、食欲を刺激するホルモンの分泌を抑えることです。抑制がきかずに食欲が高まるホルモンが出れば、無駄な食欲が沸いてしまいます。睡眠不足が肥満につながるのは、こういった仕組みがあるためです。 
しかも、お酒は飲むほどに「お酒に強く」なってきます。つまり、酔うまでのお酒の量がじわじわと増えるのです。すると、お酒によって肝臓がダメージを受け続けてしまうデメリットまで追加されてしまいます。ですから、寝酒は厳禁です。

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4. カフェインは睡眠の邪魔をする

カフェインは心身を興奮状態に

睡眠に効果的と言われている食材や成分は、間接的なものしかありません。しかし、明らかに睡眠の邪魔をするとわかっている成分があります。それはカフェインです。
カフェインには目を冴えさせてしまう覚醒効果があります。午前中などにカフェインをとると、頭が冴えたり、集中力が上がったりします。カフェインは過去にはオリンピックのドーピング対象となっていた成分で、それほど身体の能力を呼び覚ます効果がある成分なのです(現在は監視対象成分)。
カフェインは脳と身体を興奮状態にして、心身を元気いっぱいにしてくれる効果があります。つまり、カフェインは睡眠という休養モードに正反対の働きをもっているのです。
カフェインが多い食品は、コーヒーやコーラ類、栄養ドリンク類などです。お茶類では、一般的な煎茶では問題ありませんが、玉露だけはカフェインが飛び抜けて多いので要注意です(下表)。
表 飲物に含まれるカフェインの量
コーヒー1杯 紅茶1杯 栄養ドリンク1本 煎茶1杯 玉露1杯
90mg 45mg 50mg 30mg 240mg

カフェインの作用には個人差

カフェインから受ける作用の強さや持続時間は個人差が非常に大きいものです。例えば、栄養ドリンクを飲んだら夜でも目が冴える人、コーヒーを飲んだ直後でもすぐに眠れる人など、人それぞれです。しかし、カフェインの摂取で「無自覚に睡眠時間が1時間短くなる」という研究データがあります。カフェインをとってもすぐ眠れると感じていても、知らぬ間に睡眠の開始時間が遅れていたり、睡眠が浅くなっている可能性が大きくなっています。質の悪い睡眠は、時間を確保していても「睡眠負債」の一部となって積み重なってしまいます。

カフェインをとるなら睡眠の2.5〜4時間前まで

では、カフェインの多いコーヒーなどはどのタイミングで飲めば良いのでしょう?
これも研究途上で諸説あるのですが、一番早いもので午後2時までとしている調査もあります。しかし、あまり現実的ではありませんね。そこで、少なくとも寝る2.5〜4時間前に飲み終えておくのが良いでしょう。
カフェインの1日の摂取目安量などはありません。しかし、コーヒーなら1日1〜2杯程度にとどめておくのが良いでしょう。また、栄養ドリンクは、カフェインの作用で疲労感を打ち消してしまいます。これはカフェインの覚醒作用で疲れを誤魔化しているだけにすぎません。ですから、「どうしても」という時に1本飲む程度にしておき、疲れている時にはまず睡眠をとりましょう。シッカリ睡眠をとって睡眠負債を返してから、再び取り組むほうが集中できて効率もよくなります。
カフェインには中毒性が
「コーヒーを飲むとリラックスする」という人も多いでしょう。これはコーヒーの「苦み成分」の影響を受けているのです。実は苦みという味には中毒性があります。中毒というと危険な印象を受けますが、野菜にも苦みはあります。
苦みに関しては、最初(飲食し始めた時期)は本能的に「毒」と判断して苦みを強く感じます。ですから、毒に敏感な子供にとってコーヒーは苦すぎて飲めないのです。同じ理由で子供は野菜の苦みも生理的に受け付けずに残してしまいます。しかし年齢とともに食べられるようになるのは、繰り返し食べることで「これは安全な味である」と脳が判断するからなのです。コーヒーも野菜同様「安全な毒(苦み)」であるとわかると繰り返し飲食しても大丈夫と脳が判断します。
安全な味であると判断すると、今度は苦み成分に強く惹かれるようになるのです。コーヒーの苦みが大好きになる、好きなのでしょっちゅう味わいたい、という心理が働くので、それを「中毒」と表しているのです。
ノンカフェインのコーヒーで苦み成分が少ないと「不味い」と感じてしまうのはこの影響。コーヒーの苦みに中毒性があるから止められないのです。

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5. 乱れた睡眠は朝食でリセット

体内時計を朝型にする

人間は生まれつき体内時計を持っています。この体内時計があるために、日中は活発に活動し、夜は休息するというリズムがあるのです。
私達はキッチリ1日24時間で生活しています。ところが、体内時計のほうは「だいたい24時間」と、平均して実際よりも15分ぐらい遅いのです。少しのずれですが、1週間積み重なると2時間もずれていることになります。体内時計がずれると夜型になります。夜型になると寝つきが悪くなり、睡眠不足の状態で朝を迎えることになるのです。
とここが、体内時計は食事で動かすことができるのです。これには、夕食後から朝まで何も食べない「断食」が必要になります。朝食を英語でbreakfast(ブレックファースト)と言いますが、break(ブレック)は「破る」、fast(ファースト)は「断食」の意味。つまり「断食」を止めるのです。この「断食」の終わりを告げる食事が朝食なのです。朝食を食べることは、体に「昨日から今日に切り替わりましたよ」と宣言し、体に朝が来たことを告げるのです。
朝食をシッカリ食べるだけで体内時計が朝型になり、1日の食欲のコントロールも乱れにくくなります。

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菊池真由子(管理栄養士 健康運動指導士 NR・サプリメントアドバイザー)
大阪大学保健センター、フィットネスクラブ、国立循環器病センター集団検診部を経て、インターネットなどで病気の予備軍の人達への栄養指導を専門に20年あまり従事。特にダイエット、生活習慣病、メタボ対策、健康づくりなどを中心に行う。サプリメントの専門家としても幅広く活動し、マスコミ取材も多数。
著書に『免疫力を上げるコツ』『免疫力を高めるとっておきメニュー』『がん予防に役立つ食事・運動・生活習慣』『40歳からの健康ダイエット』『花粉症からあなたを守る食事学』『あなたと家族を守る がんになりにくい、再発しにくい 食事と生活習慣』など。



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