総務省の平成25年住宅統計によると、3,200万戸の持ち家の内、20%近くの住宅は間取りを変えたり、キッチンなどのリフォームを行っています。この中には壁紙を張り替えたり屋根の補修をしたり、災害で壊れたところを直したりする数は含まれていません。即ち、5人に1人は自分の住まいに不満を抱えて実際に改修工事をしていることになります。行動には移さなくても不満を抱えながら暮らしている人はもっと多いでしょう。
どうしたら住まいに対する不満は減らせるのでしょうか。
①立地
通勤時間や経路、駅からの距離などを考えて決めます。
②金額
予算は重要な項目です。大きさ(広さ)や設備(エアコン、換気、給湯など)などで違ってきます。また、立地(土地代)も大きくかかわってきます。
③広さ
部屋数(間取り)は自分や家族のライフプランに合わせて決めます。
④使いやすさ
機能的かどうか? 設備(エアコン、換気、給湯など)は整っているか? 日当りは? 防犯、防災は?
⑤美しさ
家は見た目も大事です。街並みの中で目立つのが良いか、馴染んでいるのが良いか?
家の資産的価値とは別に、生活するための「器としての価値」を考え直してみよう。「器としての価値」といっても色々な側面があります。住まいの仕組みとして、上記③〜⑤にあたる部分で、少し細かく見ていきましょう。
【住まいの広さ】
広さというと先ず部屋数がどうか?ということがあります。2DKの「2」が寝室や個室などの数になります。タイプとしては下表のような仕組みが一般的です。DKはキッチンと食事室(ダイニングルーム)を兼用した部屋。LDKとなると更に居間(リビングルーム)を兼用できる広さがあります。更に、キッチンが独立してきたりセミオープンだったりすることがあります。また、下表の他にも単身者用のワンルーム、仕事場兼用のスタジオタイプ、2世帯住宅、5以上の部屋を持つ住宅など様々です。マンションや建売のチラシには「2LDK」「3LDK」といった表記が一般的ですが、平面図と見比べて各部屋の大きさや方位などチェックしましょう。それでも、100%条件に合うものは無いと思いますが、住まいの仕組みを知っていれば、部分的にリノベーション(改修)を行い満足できるものにすることもできます。
■表1 住まいの広さと仕様
タイプ | 床面積 | 最近の傾向 | ||||
2DK | 40〜50m2 |
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2LDK | 50〜60m2 |
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3DK | 55〜65m2 | DKタイプはあまり人気が無いので最近は作られることが少ないが、賃貸コストを抑えるためにアパートなどでは選択される。ただし、立地が悪いと、敬遠される。 | ||||
3LDK | 65〜80m2 |
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4LDK | 70〜100m2 |
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※DKとかLDKの呼び方は広さの厳密な定義はされていなくて通常DKは広さが6〜9帖、LDKだと10帖以上と言われています(取り扱っている不動産屋によって異なります)。また、1帖は壁芯計算で90cmx1.8m=1.62�で計算していることが多いようです。16.20�あれば10帖とすることができるわけです(正確には9.8帖)。3.3�を1坪と思っている人が多いようですが、正式には3.3x0.3025=0.99825坪です。0.3025を掛けたものが坪になります、坪を2倍したものが正確な帖数になります。坪を�に換算するには0.3025で割ればよいわけです。
【住まいの使いやすさ】
住み続けるうえで「使いやすさ」とは何でしょうか?
それは人それぞれ異なります。右利き、左利きでも違ってきます。簡単な改修でしたら自分でもできます。細かい作業が不得意な人も補助具を使うことによって解消できることもあります。それは身体的に障害がある人が補助具や介助者によって通常に近い作業ができるのと似ています。例えば、キッチンで巾木収納の踏み台を使って吊戸棚の高い位置も有効活用することができます。
住宅の使いやすさの大きな決め手は動線です。動線とは、文字どおり人が動く線ということですが、家事や子育てなどを行ううえで重要です。帰ってきてコートを掛けて、買い物をキッチンに運んで、自室で着替えてといったときの動きがスムーズか? 洗濯物を干す時は?といったことです。また、子どもが学校から帰ってきて親の顔を見ずに自室に入ってしまうよりも、キッチンや居間を通って子ども部屋に入るようにしたほうが、子どもに対して目が届くでしょう。
動線は、玄関の位置、居間、食堂、キッチンやトイレ、浴室の位置によってその流れが変わってきます。特に戸建ての住まいでは、玄関は道路との関係で決まってくる場合が多いのですが、部屋を配置しやすいのは北側道路でしょう。玄関が北側で、部屋が南側を占有できるからです。
【住まいの美しさ】 多様な世の中で、自分らしさを求める傾向は強くなっています。他と少し違うもの、自分の好みに合うものは使っていて気持ちが良いものです。ファッションにその傾向は強いと思われますが、住まいの場合も同じです。ファッションの場合、「伊達の薄着」のように機能性を無視してまでカッコウにこだわることもあります。住まいでも機能性とデザイン性がぶつかった時デザイン性を選択することもあります。 人間の美しさには、外観よりも生き方やその人の価値観が大きく係わってくるように思います。それは、信念と言われるようなものです。その人の生き方を具現している住まいは、単なる美学とは別の次元で、美しく感動的です。 住まいの美しさを考えるとき、街並みとも関係性も大切です。街並みでいうと、「統一感」という意味でヨーロッパのパリや日本の京都が有名です。一方、東京は何でしょうか?混沌とした状況であることは明白ですが、混沌を面白いという意見も一方ではあります。パリは街として統一されているけれど、同じ色と同じデザインが繰り返されているので面白くないという人もいます。混沌という中には個性の重視という要素も含まれています。日本の都市では景観条例という規制の中であまりにもとっぴな色とか看板を制限するようになっています。 リクルートの調査によると、部屋の中でデザインにこだわるところは①居間(リビング)、②玄関、③キッチン、④浴室、⑤トイレという順序のようです。1位の居間は半数の人が重視しています。一番長い時間使う部屋であることと、来客への意識もあることが要因でしょう。戦前、ゆとりのある家では、敷地の一番良いところに応接間を持つことが多かったのですが、日常使用頻度の少ない部屋を南東に配置するのは勿体無い限りです。 |
食卓や椅子は低めを選択 家具のおしゃれ度は一位が食卓だそうです。スペースが許せばソファーだと思うのですが、ソファーを無くしてくつろげる食卓が生活の中心となっていることが良く分かります。その場合の食卓の選び方は低めの65cmくらいの高さで、椅子も少し低いものが良いでしょう。事務用のスチール机は72cmの高さで、椅子も座面の高さが42cmというのが標準です。これは靴を履いているのと、立ったり、座ったりが多くてその動作に対応しやすいからです。ちなみに、中国で昔経験したのですが、そこの食卓は80cmを越えていました(椅子は42cmなのに)が、利点は食器と口の位置が近いのでこぼし難く、姿勢は良くないと思うけれど肘をつけやすいという点でした。 |
システムキッチンはメーカー同士の競争もあって種類も豊富になってきました。我々設計者も全てを把握できない状態です。しかし図面を描いて、専門家に家具を作ってもらうことは良くあります。この場合はシステムでなく、オーダーキッチンと言います。火床、流し、食洗機等は選んではめ込むことになります。壁の長さにあわせて作れるのでスペースは有効に使えて、見た目もきれいです。値段はシステムも選び方によっては随分と高いものがありますが、扉の面材やワークトップ(カウンターの材料)などで調整しながらオーダーすればそれ程でもなく作れます。
その前に、「キッチンを独立させるのか、オープンにするのか」という方針を決めます。考え方は、キッチンを誰が使うか?炊事は主婦だけでなく、主夫ということもあります。男子厨房に入らずといっていた時代では無くなってきていますし、また、現実に多いのが作る人は奥様で洗うのは御主人というケースで、我が家もそうです。これは時間差があるため、キッチンでの作業人は1人なので狭いキッチンでも大丈夫です。娘が一緒に炊事をする場合などは、オ−プンキッチンか作業台が少し長めのものが良いでしょう。炊事工房として独立させた場合は鍋や食材を隠さずに置いておけるので使いやすは抜群です。これはどちらかというと主夫向きかもしれません。女性の場合は隔離されたところでの作業は敬遠されがちです。オープンキッチンはすっきり片付けて置けば食堂、居間の空間と一体となって広々とします。工夫の仕方によっては工房のように道具、食材を見せながら格好良く作ることも可能だと思います。
昨今、キッチンは小さく、冷蔵庫は大きくなる傾向にあります。レトルトや半製品を加熱したりして、調理が手軽になってきているためです。更に、ごく近くに、コンビニなどあれば極端に言うとキッチンも要らず冷蔵庫も最小限で済むということになります。単身者のアパート探しはコンビにまでの距離がその判断基準として多くかかわっている事が知られています。
※本ホームページの「すまいとライフスタイルプラン」の中でもキッチンと食堂、居間の組合せは4帖半キッチンと10帖食堂・居間の広さで作ってあるので参照してください。
http://zenshakyo.org/sumai/point/index.html
住まいに自分らしさ(オリジナリティー)を取り入れるためには、その取っ掛かりとして常識を疑ってみるという方法があります。
畳の部屋
20年前の総務省の調査では、和室を1室持っている世帯は34%、2室は35%、3〜4室は25%、5室以上は3%、無しは3%でした。都市部の新しい住宅では和室は少なくなっていますが、古くからの家屋では「続き間座敷」として2部屋以上をつなげて冠婚葬祭の集まりができるように作られています。ところが、冠婚葬祭も専用の施設ができてくると、家の中で行うことが少なくなっていきます。
畳の部屋のメリットも勿論あります。「何とかと畳は新しいものに限る」と言われるように、畳の香はアロマテラピー(香の癒し)として魅力的です。また、多目的室としても有効です。
持ち家のマンションの場合は平均の床面積が72�(22坪)ですが、戸建ての持ち家は132�(40坪)あるので畳の続き部屋を作れる広さがあります。多目的室は来客用または隠居用? それとも居間には通したくない客の応接用? でも、普段使わないのに南の良い場所(注)を占有しているのはもったいない話です。
和室には京間と関東間がある 余談ですが、和室には京間と関東間があるのをご存知でしょうか? 京間は畳の寸法が909X1818mmで3尺X1間でできています。畳の寸法が決められているので、引越しの際も畳ごと移動したと言われています。また、畳を部屋の中で入れ替えることができるので、入口の傷みやすいところは大掃除などの時に入れ替えて長持ちさせることもできるようです。一方、関東間では柱の中心で3尺、1間としているので畳は6畳の場合それぞれ寸法が違い入れ替えは出来ません。し畳寄せという部材の寸法を長手方向と短手方向で変えれば縦横同寸の畳にすることは可能です。 ※3尺は正確には909mmですが、これを910mmとしたり、900mmとしたりすることがあります。賃貸アパートの帖数と同じように、建売などでは900mmを3尺としたりすることがあります。ベニヤ板などは910X1820mmが規格です。 |
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柱が外側で部屋の内法が基準。畳はどれも同じサイズ。 |
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柱芯が基準寸法。この例では柱を一般的な105mm角で書いている。畳はどれもサイズが違う。 |
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関東間の短辺に18mmの当て木をして畳寸法を同じにした。 |
南向きの部屋
南が良い場所というのは日当りが良いからですが、夏は暑く、仕事部屋と考えると北側の出来れば眺めの良いところが筆者の好みです。このように、価値観は人それぞれなので自分の価値観はどうか見つけてみましょう。 特に、子ども部屋というと南の部屋を望む親御さんが多いのですが、北、東の方角が良いでしょう。子どもが家に居る時間が一番多いのは夏休みだと思います。暑い夏に南側の部屋はクーラーつけないと勉強できません。 ところで、南の部屋は日当りが良いというのは本当でしょうか? 例えば、南側が道路の場合は1階でも日当りが良いでしょう。しかし、道路からの目線が気になってそのままでは暮らせないことがわかります。窓に反射フィルムを張る方法もありますが、一般的にはレースのカーテンで凌ぐことになります。 南側が隣地の場合は1階では直射日光は期待できないことが多いようです。冬場の太陽は、南に来たときでも30度の角度まで落ちてきます。大体、南側の建物高さの2倍の距離を離れていないと陽の目を見ないことになります。2階建ての切妻屋根の棟でない低いほうの水平部分が5.5mあれば11m離さないと縁側まで日が当たりません。日影の問題は建築基準法でも定められていますが、きびしい地域でも1階の縁側までは保証されておらず、せいぜい1階の腰窓のあたりまでです。 |
方角のズレには気をつけて 余談ですが、マンションで南北軸に配置されたものが稀に見られますが、貴方は東向きを選びますか? 西向きを選びますか? これは勿論好き好きですが、北の方向は磁北(磁石のコンパスの方向)なのか真北なのか確認する必要があります。太陽は正午には磁北の反対の南には無いのです。真北というのは北極の方角で磁北とは東京で言うと約6度東にずれています。地図の表示は真北を示しています。冬至の南中時刻(太陽が真南に来る時)は東京で約11時40分です。ということは、磁北の南北で建てられたマンションでは西側のほうが20分余計に日が当たることになります。但し、夏場は西陽で暑いです。 更に余談ですが、風水では磁北を使い、鬼門などの方角を見る時は真北を使うようです。いずれの場合も過去の住環境で便所は鬼門が駄目だと言いていたわけですが、換気扇や暖房器具が出来た現代ではこだわらないで良いでしょう。 |
ユニテ・ダビシニオン
世界遺産となった建築家ル・コルビィジェの作品群は、わが国においては上野の西洋美術館に代表されます。自国フランスのマルセイユでは、ユニテ・ダビタシオンという高層の集合住宅が興味を引きます。このほかにも、ルゼ(仏)やベルリンなどにも建てられました。終戦の1945年、多くの人が家を失ったなかで、こうした計画は立てられました。
ユニテ・ダビタシオンは、1952年、マルセイユに建てられました。18階建て、全337戸で、最大約1,600人が暮らすことができる巨大な集合住宅です。1階はピロティ(柱だけの空間)で、屋上は開放された空間になっています。1人用から4人用までの23タイプの多様なユニットがコンクリート打放しの構造で作られています。ユニットの中は規格化された木造系の間仕切りで部屋が成り立っています。住戸はメゾネットで、エレベーターは3階ごとに停止します。中間階の7階、8階及び屋上には、共用施設が設けられおり、7階、8階には、店舗や郵便局等が、屋上には保育園、体育館、プール等があります。ちなみに、1961年には3階、4階部分には住居を利用してホテルが開業しており、現在でも一般客が宿泊することができるそうです。
ユニテ・ダビシニオン模型。 |
奥がキッチン、階段を上って、2階個室という「メゾネット」形式になっている。 |
キッチンはコンパクトだが非常に機能的、現在もこのまま使われている。 |
常識にとらわれず理想を追いかける
ユニテ・ダビシニオンは昭和20年代前半に作られたわけです。その頃日本では公営住宅が作られ、住宅公団が昭和30年に発足し40�の床面積で2DKが作られていました。DK(ダイニング・キッチン)は日本の発想で生まれ、少し大きめのキッチンで食卓を置いて食事室と兼用したわけです。食事室と寝室が兼用だった和室を独立させました。それまではちゃぶ台を食卓にして、寝る時はそれを片付けるという食・寝一体の和室でした。
コルビィジェの初期は戸建ての住宅を作っていたのですが、屋根のある住宅が主流のときにコンクリートの陸屋根の格好は一般的には受け入れられなかったそうです。屋根の無い家は住宅ではないと・・・しかし、屋上をテラスや庭として活用し、居室は水平の窓が長く繋がって、それまでにはない明るい住宅ができたのです。パリ郊外のポワッシーにある「サヴォア邸」は1931年の作品ですが、最初、依頼主は窓に黒い紙を張って過ごしたという逸話もあるほどです。このように、今までの常識の中で考えると外れたことに対して拒絶反応が起こるものですが、「ほんとに駄目?」ともう一度自分に問い直してみましょう。
サヴォア邸。 |
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次回は具体的に部屋を組み宛て、簡単な方法で間取りを設計してみます