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【家と健康②】家を取り巻く環境の健康問題

第1回目はシックハウス、ハウスダスト、カビといった家のなかに潜む健康問題を取り上げましたが、今回は家を取り巻く環境のなかに存在する健康問題についてです。家の周りには、数限りない健康阻害要因が存在しています。しかし、むやみに恐怖を感じるのではなく、まずきちんと知ることから始めましょう。

健康は自分で守る

家の外部の環境は、自分では変えることは困難です。それならば、予測し正しく対策することで、少しでも快適に健康な生活が維持できるよう考えてみましょう。

1.アスベスト
2.騒音
3.PM2.5

1.	アスベスト

アスベストとは

アスベストは石綿といって天然の石(蛇紋岩など)を高温で焼いて作る繊維状の物です。直径0.02〜0.35 μm(マイクロメートル=1/1,000分ミリ。髪の毛の約5,000分の1)程度で、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に優れ、安価であるため多用されてきました。
しかし、その細い繊維が肺などに溜まって癌を引き起こすことが判明し、使用が禁止されました。それまでは自動車のブレーキパッドなどにも使われて、ブレーキを踏むたびにアスベストの繊維が空中に飛び散っていたので恐ろしいことです※1。 建築では、鉄骨を火から守るために耐火被覆材として使われてきました。鉄骨に吹き付ける時に作業員は飛び散ったアスベストを吸い込み、肺がん、悪性中皮腫などに罹る人が多数出ました。また、セメント板や屋根の人造スレート(コロニアル)※2などに繋ぎの繊維としても使われていました。
今では使用禁止になっていますが、古い建物を解体したり改築したりする時は、アスベストを使っている箇所に対しては解体工法や処分について届けが必要です。使用中の建物は、アスベストを撤去したり、特殊な樹脂で塗り固めて、飛散しないような処理が必要です。

※1今はノンアスベストなので安全ですが、後述するPM2.5の3%(東京都)くらいはブレーキパッドの粉塵だと言われています。
※2屋根材として使われる化粧スレート板。

アスベストの種類

工業に使われているアスベストは、主にクリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)の3種類です。クロシドライト(青石綿)が一番毒性が強く、1995年から使用も製造も禁止されています。

アスベストに代わるもの

現在、日本では、アスベストに代えてロックウール(岩綿)が使われています。ロックウールとは、玄武岩、鉄炉スラグなどに石灰を混合し、高温で溶解して作られる人造鉱物繊維です。建築物などの耐火材や吸音材として広く用いられています。単繊維径は3 〜 10μmとアスベストに比べて太いため飛散しにくく、発がん性も低い、または無いとされています※。
ロックウールは、「吹付け工法」のほかに「巻き付け工法」も開発されて現場での粉塵対策になっています。 耐火被覆としては珪酸カルシウム板(ノンアスベスト)を使って柱や梁を覆う工法もあります。この工法は耐火被覆材に直接塗装して仕上げることも可能なので事務所ビルなどでは多く使われています。

※ロックウールは2001年国際がん研究機関で「発がん性無し」とされて、我が国やアメリカでは建築資材として使われていますが、一方、EUでは発がん性の可能性ありという扱いになっています。

ロックウール(500倍) アスベスト(500倍)

ロックウール吹き付け アスベスト吹き付け耐火材(国土交通省パンフレットより)

2.ハウスダスト

騒音の健康障害

車や飛行機の騒音、隣家の大声、隣接する保育園や公園の嬌声など、静かに暮らしたい人には脅威です。音によるストレスは健康障害の原因となります。イライラなどの情緒不安定、集中力の低下など実生活に影響が出ます。一方で、騒音に対しては慣れるもので、電車の線路際に引っ越した人は、最初1か月ほどは電車が通るたびにビクッとしていたけれど、その後は気にならずに暮らしているという話もあります。どれくらいを騒音とするかは個人差があり、人間関係に影響が出ることもあります。

どれくらいからが騒音か

環境省では騒音に対しての環境基準を設けています。この基準は平成10年に制定され、現行のものは平成24年改正されたものです。それによると、住居地では昼間(朝6時〜夜22時)は55デシベル、夜間(22時〜6時)は45デシベルとなっています。ところが新幹線に関しては70デシベル(6時〜24時)を目標値としています。地域によっては100デシベルを超えるところもあり、3年から10年以内の計画で達成することとなっています。

■表 音の基準
(人が聴き取れる音<聴力限界>を1としたときの比較)
人間の聴力限界 1倍 0dB
静かな息 3倍 10dB
そよ風で木の葉の音 10倍 20dB
深夜の郊外   30dB
閑静な住宅地(昼)、図書館 100倍 40dB
静かな事務所   50dB
普通の会話 1,000倍 60dB
高速走行の自動車内   70dB
走行電車内、パチンコ店内 10,000倍 80dB
カラオケ音、犬の吼え声   90dB
地下鉄構内、電車のガード下 100,000倍 100dB
車のクラクション   110dB
落雷、飛行機のエンジン音 1,000,000倍 120dB

防音と遮音

防音と遮音の違いをご存じでしょうか。防音と遮音は次のように定義されます。

  • 防音:外部の音が室内に入るのを防ぎ、また室内の音が外に漏れるのを防ぐこと。
  • 遮音:外部の音が聞こえてこないように、また、音が外に漏れないように遮ること。

これをわかりやすく表現すると、右の図のようになります。 即ち、遮音は防音の1つの手段であり、遮音し、吸音し、防振して防音が成り立つということです。防振は、物(床や天井、壁など)が振動すると出る(伝える)音を防ぐために、動かないように固定することです。

外の音を軽減する

室内で外からの音を軽減することは、技術的には可能です。外壁などは後から対応するのは難しいのですが、サッシを二重にすることで効果があります。「インナーウィンドウ」と呼ばれるサッシ(樹脂製が多い)を付けるとことで、音はかなり軽減され、基地の近くの家々にはよく見られます。「インナーウィンドウ」のもう1つの利点は断熱性能が高まることです。エアコンの利きが良くなりエコ対策にもなります。
新築の場合はサッシの選び方で、遮音、断熱を良くする事ができます。ペアガラス(二重ガラス)を使い、遮音性能の高いものを選ぶと効果的です。また、サッシの形式により遮音性能は違います。引違い、ジャロジー(ブラインド形式)、上げ下げ窓等は遮音性能が低いが、固定窓、開き窓、ドア等は等級無しでも遮音性能はあります。

■表 JIS(日本工業規格)の遮音等級〜アルミサッシやドアの規格〜
等級 遮音性能
(500Hz〜4,000Hz)
例(壁は同等以上の等級とする)
等級なし

【前提】外部が80dB(人と車の多い交差点例えば渋谷の交差点)の時、室内はどのようになるか
性能が10dB位として室内は70dBで外の音が室内に充満している。
T-1 25dB軽減 55dBとなり、室内でもかなりの音が聞こえる。
T-2 30dB軽減 50dBとなり、静かな事務所内の状態になる。
T-3 35dB軽減 40dBとなり、一般の室内並みの環境になる。
T-4 40dB軽減 40dBとなり、ホテルの室内並みの環境になる。

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3.カビ

PM2.5とは

PM2.5のPMは英語のParticulate Matter(粒状物質)で、2.5は2.5μm(マイクロメートル=1/1,000分ミリ)です。PM2.5は砂粒を1mmとするとその1/400の大きさ、体積では6,400万分の1ということになります。これが空中を漂うとなかなか落ちてこないので、風に乗って中国方面から飛んでくるわけです。

PM2.5の組成

PM2.5の組成は人間活動の中で生まれるものと、自然の中で生まれるものがあり、更にそれらが大気中で化合(2次生成)したものも含めて、浮遊微粒子となります。2011年の東京都のデータでは自動車などの排気ガスやブレーキの粉塵で約20%を占め石油燃焼3%、植物質燃焼7%で、2次生成粒子は硫酸イオン21%、アンモニウムイオン10%などで60%を占めます。

■図 大気汚染の仕組み


(東京都ホームページより)

PM2.5の健康被害

さまざまな成分からなる微粒子なので肺の奥深くまで入り込みやすいため、呼吸器系、循環器系への健康障害や肺がんのリスクも懸念されています。2005年のWHO(世界保健機関)の調査ではPM10という大きさの粒子について下記のような健康に対する結果が出ています。

■表 PM10の場合の健康被害
  呼吸器疾患 心臓・血管における疾患 全死因
PM10濃度 +10μg/m3あたり・1日当たり死亡率の増加率 +1.3% +0.9% +0.6%

この結果により、WHOとしての環境基準が以下のように決められました。

■表 基準値
WHO大気質指針 PM10 ・24時間平均 50μg/m3
・年平均 20μg/m3
PM2.5 ・24時間平均 20μg/m3
・年平均 10μg/m3
日本における基準 SPM(2009年)※ ・1時間値の1日平均値100μg/m3以下、かつ1時間値が200μg/m3以下
・年平均 20μg/m3
PM2.5 ・24時間平均 20μg/m3
・年平均 10μg/m3

※SPM(Suspended Particulate Matter)は大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が10μm以下のもの。

■表 大気汚染に関する注意報
環境省のPM2.5等に関するホームページ http://www.env.go.jp/air/osen/pm/info.html PM2.5の所をクリックして各都道府県を指定するとSPM、PM2.5などの他に光化学オキシダント、二酸化窒素などの現在値が確認できます。
環境省のPM2.5の現在地確認システム(そらまめ君) http://soramame.taiki.go.jp/ 広域観測システムで隣国のPM2.5の現在値も確認できます。携帯サイトもあります。上のサイトからもアクセスできます。

2.5の現状と対策

2014年の1月のデータでは、1日に北京で450μg/m3出ていました。同時刻に九州の福岡市では10μg/m3でしが、1日後40μg/m3に跳ね上り、次の日まで続きました。どうやら北京からは1日経って九州に届くようです。こうしたことも踏まえて、現状を知っておきましょう。なお、北京の米国大使館での測定では、886μg/m3という最高値を2013年1月12日記録しています。
PM2.5濃度が悪化した時は、外出を避けて室内で空気清浄機を回すことが良いでしょう。どうしても外出する時はマスクを着用しましょう。マスクも医療用や産業用のものでないとPM2.5は粒子が小さいので防げません。

最後に筆者・小林昌弘氏(小林設計工房)より

「家と健康」ということで見てきましたが、技術をもって防げる、あるいは軽減できるものと、そうでないものもあることがわかりました。例えばダニのように絶滅するのは不可能でも、その中で自然界の一員として人間が共存していくのだと思います。極度に清潔・潔癖を求めてクリーンルームで生活することも可能ですが、外の社会で活動する為にはある程度の耐性を持った体質が必要です。また、本来人間にはその素質が備わっているものと思います。神経質になりすぎると精神的にも良くないのではないでしょう。住宅が清潔であることは大事ですが、精神的な健康のためには気持ちの良い空間で暮らせるデザインも大切です。

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